2015-08-04

『十円札』芥川龍之介 ★5


いい話だなあ。

金欠の主人公は、尊敬する人、粟野あわのさんからお金を借りることになった。
だけど、彼の信用を失いたくない、自分の威厳を守りたい。
そのためには、十円札をとっておいて、早く返すのが一番だ。
街には誘惑が待っているが、主人公は使わずにいられるだろうか……という話。

借りないとせっかくの好意を無下にしてしまう。
返さないと相手の信用が落ちてしまう。
形に現れないもののやりとりを、お金を介してやっている。
『贈与論』を身近な物語として見ているようだった。

後半十円札をしげしげと見、それは細やかな印刷の入った紙、美術的に見れば額に入れてもいいかも――、ものを多角的に見せるのも面白い。
楽書らくがきをする紙、信用の媒介をする紙、窮乏の悩みの種、もしかしたら悲劇を起こした事もあるかもしれない、と。

読後感も爽やかで、素晴らしい作品だった。

芥川さんの作品は、『地獄変』『羅生門』といった陰のものより、こういう愛嬌が見えるものの方が好きみたいだ。


メモ

  • ヤスケニシヨウカ → 弥助にしようか
    弥助=寿司のことだそうだ。語源由来辞典

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