2015-08-01

『鼻』芥川龍之介 ★3


口にまで垂れ下がる長い鼻を持つお坊さんの話。
人と違うものをもっている恥ずかしさ、劣等感。
同じような鼻を持っている人はいないか、どうにかして人並みの鼻にできないかと苦心し、はたしてその願いは叶うのだけれど……
――人間の心には互に矛盾した二つの感情がある。勿論、誰でも他人の不幸に同情しない者はない。所がその人がその不幸を、どうにかして切りぬける事が出来ると、今度はこっちで何となく物足りないような心もちがする。少し誇張して云えば、もう一度その人を、同じ不幸に陥れて見たいような気にさえなる。
普通の鼻になったお坊さんは、逆に嘲笑の的になってしまうのだった。

どうも今鬱々とした気分で読んでいるせいか、人間、他人を貶めたい感情を持つことも常理とはいえ、修行をつんでるお坊さんでもそういう感情から免れないのか、と残念に受け取ってしまう。
(物語上のことなのだが)

しかし最後には、鼻は元に戻りお坊さんは安堵する。

変な鼻の方が、周囲には受け入れられているのだ。
前半で「変」なはずだったものが、最後には変じゃなくなっている、価値観の転換。
(お坊さんが普通の鼻である事のほうが、変なのだ)

そしてお坊さんも、あれだけ嫌がっていたものに「戻ってよかった」と思う。
逆転現象が起きているのが面白い。

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