うーん、今回はいまいち。
犀川も萌絵も地の文も、もったいつけた態度が端々に見えて途中でうんざりした。
意味がわかる人にはそうは映らないんだろうが、私にはわからないからなー。
この本はこう言ってるような気がする。
「わかる人だけわかってくれればいい」
つまり私は読み手として選ばれてないんだろう。
以下ネタバレあり。
トリックは簡単
らしい。私も最初は、
図を見てこういうトリックありそうだよなーと思ってたんだが……
「……とすると左右の館が変わってしまって、
律子は1号室に戻ったわけじゃなくなる……
だけど律子を運んだ時4人くらいで行ってるし、
息子も一緒についてってるし、
もし違う部屋だったら律子の荷物が無いとか、
家具の位置が違うとかでバレるんじゃないか?
そんなリスク犯すかー?」
と思って、考えるのをやめた。考えすぎたっぽい。
代わりにもうひとつの謎
地下にいたのは数学者だったのか?という謎。自分はもうそこに辿り着く前に熱意を失ってしまったので……
興味がある方は以下参照:
再読『笑わない数学者』と逆トリックの検証
アクション
以下ふたつのシーン、どちらも緊張感があって良かった。けど気になる点も。
■昇が銃で撃たれ、身代わりに萌絵が駆け出す
昇の父親について話す部分は、意外と萌絵にデリカシーが無くて驚く。
『虚無への供物』の久生さんを思い出した。
そのあと身代わりになるところは、純粋に萌絵の行動力がすごい。
■昇が母の首にナイフを突きつけて下がる
あとで犀川が銃弾を抜いていることが判明するが、
それでニヤリとはいかないよなあ。
不測の事態があるなら、警察にはあらかじめ話しておくべきじゃないか?
とまともな事を考えてしまった。
萩原刑事も、よく真相を聞かずに人を集めることだけ承諾したものだ。
「真相を最後に探偵が明かす」というのは推理ものの定番だけど、
それを実行するための流れがこの小説のフィクションレベルに合ってなくて、
シュールな感じがする。
どうなるかと行方を見守っていたが、結局萌絵の合気道で一件落着。
萌絵がチートすぎていまいち物足りない。
そういえばかまいたちの夜にもこんなシーンあったなあ。
引用
犀川創平には、こんなありふれた「無縁」が、ちょっとした池の埋め立てができるほどたくさんある。 p18面白い言い回し。
「僕は原始的な印象を持ちましたけど……」犀川は軽く肩を竦める。紀元前の哲学者ペレキュデスが語る元素的宇宙みたいだ。
湯川は頷いた。「生命を拒絶しているというよりは、生命以前の宇宙なんですよ。だから、冷たい……」 p49
この世界観を考えるとき、いつも宮沢賢治が頭に浮かぶ。
何も愛さなければ失うものはない、それが人間の「洗練」というものだ、と彼は信じたかったのである。ブクログに「聖帝サウザーか!」というレビューがあったが、たぶんこの部分か。お師さん…
テレフォンカードのような薄弱さと、ドーナッツのような幼稚さに、呆れながらも、彼は、烏の嘴みたいに頑固に、まだそう信じている。 p129
テレフォンカードとドーナッツという表現が好きだ。
■コショウを入れすぎたサンドイッチ/熱いコーヒー
本の中のハイパーリンク。
その品物そのものじゃなく、それが書かれた付近にヒントが隠れている。
コショウを入れすぎたサンドイッチp104 → コショウのフタが外れやすかった
熱いコーヒーp321 → 電車に乗ったとき。電車同士のすれ違い
品物とヒントは、本の文章で見ても近くに書いてあるし、
書かれた内容レベルでも近いところにある。
(本の中の登場人物がそれらを関連付けるのに、
なにも不自然じゃないということ)
では、本の文章で見た時だけ近いところにある場合は?
(登場人物にはわからず、読者にしかわからない)
『ロリータ』みたいなことになるんだろうか。
関連シリーズの感想
S&M01 『すべてがFになる』S&M02 『冷たい密室と博士たち』
S&M03 『笑わない数学者』
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