2014-10-23

『ララバイ』 チャック・パラニューク ★3

ララバイ (ハヤカワ・ノヴェルズ)

あらすじ


乳幼児ぽっくり病の取材を進める新聞記者ストリーターは奇妙な事実に突き当たる。死亡した赤ん坊たちの家にはすべて、『世界の詩と歌』という本が置かれていたのだ。

やがて、その中の子守歌に聴いた者を瞬時に殺害する魔力があると判明する。もし、この歌がラジオやテレビで流されたら?

戦慄に身を震わすストリーターは、この「間引きの歌」の秘密を知る3人とともに、現存するすべての『世界の詩と歌』を処分するアメリカ横断の旅にでる。


簡単な感想


「おいおい、頭のなかで歌っただけで人がコロコロ死んでくぞ!ギャグかよー!」
「ファイト・クラブの文化破壊みたいに、主人公は世界中の音を抹殺する気か!?」

最初は盛り上がって読んでたけど、旅に入ってからトーンダウン。

  • 『ファイト・クラブ』と似た表現に飽食気味
    • 文化破壊主義者タイラー = 主人公(前半)、オイスター。
    • 「想像してほしい、○○が○○なところを」
       「○○依存症どもときたら。○○恐怖症どもときたら」
       新聞広告
    • パスワードはpassword
  • オイスターのバイオテロ話
    親がこういう話に詳しいので、身につまされて本当にキツイ。
といった理由で、全体ではあまり面白いと思わなかった。
が、あとがきまで読んで、本のテーマに対しては感想を改める。


※以下、重大なネタバレあり。








殺されるべき人々がいる。俺は彼らを殺したい。

そうしない理由があるのか?


作家の父の狙撃事件。
「犯人の死を自分は望むのか?」が本書の出発点にある、とのあとがき。
それを読んで、いろいろと合点がいった。

こいつらを殺したい/殺せる方法を手に入れた/つい殺してしまった/
殺した人間、自分となんの交わりもない、ただの騒音……にも背景がある/
簡単に殺せるのは危険だ/その方法を封じなければならない/
力の行使を我慢しなければならない/つい殺すのなら悪い奴にすればいい/
殺す力を手に入れたい/手に入れたら死姦したい/
手に入れたら世界をリセットする/それは許されない/
お前も人を殺したくせに

人を殺す力の行使について、いろんな視点をすくい取るように描いてるんだなと。
そのまま作家の葛藤だったのかもしれない。


だが私がその「出発点」に立てたのは、ヘレンが死んだ時だった。
あの死は泣けた。
オイスターのことを、死を望むくらい許せないと思った。

だから、そこから一人残された主人公の、心の動きを読んでみたかった。
結局それは入れ替わりの呪文によって、叶えられないのだが。

あの入れ替わりがパラニュークらしいといえばらしいのだけど、
うーん、惜しい気もするんだよなあ……。

真面目に泣いたのに、後の展開でその気持ちが台無しになって、こう思う。
私の肉体が死んだら、魂まですっぱりと消えますように!



引用


人工を増やすな p14
モナが誤字った。


子ども部屋は青と黄、窓には花柄のカーテン、ベビーベッドの隣に白い枝編み細工のチェスト。ベビーベッドの上に黄色いプラスチック製の蝶のモビール。/床には三つ編み紐を渦巻き状に編んだ青い絨毯。壁に額入りのニードルポイント。刺繍糸は、マザーグースの一節を綴っていた――“木曜生まれは旅に出る”。部屋はベビーパウダーの香りをさせていた。 p18
赤ん坊がそこにいたと想像できる家具や調度品。
なぜか鼓動が早くなるのは、持ち主が「いない」からか。


テレビで流される笑い声のほとんどは、1950年代初頭に録音されたものだ。いまとなっては、笑い声の主のあらかたが故人だ。 p21
幽霊の声みたいだ。


ながら依存症どもときたら。集中恐怖症どもときたら。 p25
ごめんなさい。


聾の者が大地を相続する。 p50
毒を持つ言葉の存在が知られた後の世界。静寂が支配する。


ジョニー・アップルシード p122
ちょうど読みかけの『アメリカ畸人伝』にも登場。タイムリー。


その土地原産のもの、そこにしかないものは、居場所を失う。
「将来、生物多様性は」オイスターは言う。「〈コカ・コーラ〉対〈ペプシ〉だけになるだろう」 p124


何世紀も昔、長い航海に出た船乗りは、すべての孤島につがいの豚/山羊を残した。/孤島は、原始のままの自然を保っていた/鳥たちの/楽園だった。
彼らが次にそういった孤島を訪れたとき、残っていたのは山羊か豚の群れだけだった。/
船乗りたちは、それを“肉の種まき”と呼んだ。 p149


消防隊がホースと羽毛が生えたような水の白い弧をそこに向けている。 p166


クリームのように白い尻のほっぺた p156
『ファイト・クラブ』でも思ったけど、尻描写うまい。


モナは外科医というより考古学者だ。 p162-8
膿んだ足裏からピンセットで模型の破片を取り出す。
このシーン全部好き。この人は怪我の描写が本当にうまい。
ラストの砕けた宝石、砕けた歯、砕けた青い死体のシーンも視覚的で好き。



関連


ちょうど本編でもオウムが死んだので。

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