2015-09-24

映画『第9地区』★5

一番最後のシーンがすごく泣けた。

ドキュメンタリー風のシーンとリアルタイムなアクションシーンを繋いで作ってある。

オープニングはこんな感じ:
ヨハネスブルグ上空にて突然巨大な宇宙船が静止。
動きがないので人類が中に入ってみると、エイリアンは栄養失調で死ぬ寸前だった。
仕方なく下の空き地にテントを作り救済。

エイリアンは見かけがエビみたいで動きが素早く、猫缶が大好き。
階級があるらしく、ここにいる大半は「働きバチ」で凶暴。ゴミ山を漁っている。

20年後、この地はスラムと化し、付近の治安は悪化。
住民の排斥運動も高まり、エイリアン移住計画が実行されることになった。
計画の総責任者が主人公、ヴィカス。


※以下重要なネタバレあり。

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皮肉な映画

エイリアン(クリス)の方が感情移入しやすい。
「故郷に帰りたい」という願いを叶えるため苦難に耐えている現状、子供や仲間を思う心が描かれる。20年かけて作った燃料が奪われ、希望が絶たれたと考えたクリスが子供に「故郷にはもう帰れないんだ」と言い聞かせるシーンは胸を打つ。

逆に人間は邪悪。
人体実験場、無抵抗のエイリアン殺戮、金のため娘婿の命を売る、醜い殺し合い。

この作品ではエイリアンとして描かれているが、構図は人種差別、民族浄化といった事と同じ。
エイリアンの得体の知れなさはそのまま、自分にとって理解度の低い「何者か」に通じる。
「何者か」も自分と同じように仲間を愛し、慈しみをもつ存在である。
彼らを問答無用に蹂躙することの非道さ。


(だがこの作品がうまいのは、エイリアンを階級制にしていること。
圧倒的に多い「下級エイリアン」のイメージがそのままエイリアン自体のイメージになってしまう。

行動が短絡的で人間にとって危険。
意思疎通が図れず相互理解は無理。
また外見が人から遠いのも、それらを助長している。
人類とは相容れない存在。

さらに人智を超えた兵器を作るのに、一斉蜂起など計画性のある事ができないため、ヴィカス達は彼らをなめている。「すごい兵器を作る虫」くらいにしか考えていないだろう。

これらのレッテルが、意思疎通ができ、共感可能な「司令的立場のエイリアン」にまで貼り付けられ、問題解決を遠のかせている。)


クズな主人公が変わる時

言葉が悪いが、「ヴィカスくずだなー」と思うシーンが何回かあった。
だけど同情する部分も描かれていて、そのバランスがうまい。

例えば最初のシーン。
エイリアンの卵を焼く時「赤ん坊がはじける音だ」とニヤニヤ笑っているところ。
凶暴な下級エイリアンにも、命がけで許可を得なければならないのは同情する。
が、後のクリストファーへの対応も重ねて見ると、同じ人間を強権で蹂躙しているような不快感をもつ。子供を人質にとったりね。

クリス宅地下に匿われた時も、見下しておいて「お前を治せる」と聞いてからの手のひら返しが、ほんと呆れる。
が、どんどんエイリアン化していく事には同情。
元の姿に戻り、妻の元へ帰りたいという気持ちが、指をぶった切るほど強いことも。
その後ギャングのとこへ単身乗り込み「勇気あるじゃんか」、MNUに強襲かける時には少し応援している自分がいる。

しかし司令船発射のいざこざでクリスと意見が割れ、騙し討ち。
ひとりだけ逃げた事で株は大暴落。
クリスは捕まるし、司令船には対空ミサイルが刺さって撃沈。
クリスの絶望した顔!
あーあ、ほんとだよ……。

絶体絶命のヴィカス、クリス、子供。
しかし子供がプログラムを操作、母船の誘導で帰還しようとする。

「宇宙船に何が起きてる!?」兵士はクリスを殴り尋問。
だが彼は子供を守るため口をつぐみ、暴力に耐える。
パワードスーツに身を包んだヴィカスは、助けると思いきや逃亡。
「やっぱりこいつは……」こちらが失望しかけたその時、立ち止まる。
「口を割りません」「では殺せ」「では殺せ」兵の命令が繰り返し響く。

クリスの死が迫った瞬間、ヴィカス発砲。兵を撃つ。
ヴィカスの中で、エイリアンと人の垣根が取り外された瞬間。
身を挺し、吹き飛ばされ、破損しながらもクリスと司令船を守る。

物語は変化を描くものだというが、最初利己的でエイリアンに対してあの態度だっただけに、理解が通じ、自己を犠牲にしてまでも親子を守ろうとする描写に感動する。
お手本のようだと思った。


でも思い返すたびに涙が出るのは、最後のバラを作るシーンなんだよね。
エイリアンになって、人間だった頃の何もかもを失ったけれど、奥さんのことは本当に愛してたんだなあって。
そのひたむきさに感動するのかなあ……
今これ書いてても泣けてきたからなあ、そろそろやめよう。


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2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ニール・ブロムカンプはエイリアン5(リドリーのプロメテウス系ではない方)も現在企画しているらしくそこでどんなエイリアン像を作るのか楽しみです。

Mato さんのコメント...

へええ〜エイリアンですか!
小さい頃チラ見したのが怖くて、以来手を付けていないのですが、この機会に観てみようかな……
同監督のチャッピーも気になるなあー