感想
「ん」という文字が生まれ、広く使われるようになった経緯を紹介。
関連して空海がもたらした阿吽の思想、濁音を嫌う日本文化、研究者譚などが織り込まれる。
わかりやすく書いてあり、まったく素人の私でも親しみをもって読むことができた。
面白くなってきたのは7章からだが、「ん」ついて色んな方面から話題を提供する代わりに、その奥深さを伝えきるにはページが足りていないように思う。
特に「ん が意味する薄明の世界」は突然降ってわいたような印象。
はいでもいいえでもない曖昧さ、日本語の清濁を繋ぐ役割、と興味深い内容だけに、さらに踏み込んだものが読みたかった。
謎に挑むというよりは歴史概観と話題提供の趣が強い。
メモ
下記はたぶん誤植:
- 『韻鏡』うは『切韻』をもとに作られた
- 恵果が入定、う三月には
■大まかな流れ
漢文
↓ 古事記 712 日本書紀 720
万葉仮名(上代日本語、上代特殊仮名遣)
↓
ひらがな、カタカナ 〜800
↓
訓読 9c
■日本に伝わった読み方
南北朝時代、南の「呉音」(上海あたり)が日本へ
↓
隋、唐の共通語「漢音」の字書『切韻』が成立 600
↓
桓武天皇「漢音を使うように」 792
↓
宋代、増訂版の『広韻』が出る
↓
『韻鏡』が音を図表化する
■撥音 [n, ng, m...]
中国(漢文)には「ン」の音がある。
古代日本に「ン」を表す文字はなく、イ、ニ、ム、レで代用していた。
このとき「ン」の代用として使われた言葉が、
そのまま読まれてしまい現在の読み方になっているものもある。
オモシロイ
神奈月 かんなづきなど、『古事記』『日本書紀』では「神 かみ」が「かん」に変化。
しかし「上」や「髪」は変化しない。
上代日本語の甲乙の音の違いが要因にある。
■江戸時代の研究者(7章)
1715 新井白石『同文通考』著。60刊。
「ン」の字は、梵字で撥音を表す「」からきているという説。
1777 礪波今道『喉音用字考』
[n][m]の2つの撥音がある。
1787 論争。大和言葉に「ん」の音があったかどうか。
あった : 上田秋成 『雨月物語』作者。礪波の説。
なかった: 本居宣長 「純粋な50音しかない」
1800 宣長71歳、『地名字音転用例』
1808 東条義門『男信なましな』初稿。35成立、42刊。
1834 関政方せきまさみち『傭字例』。『韻鏡』を使い[n][m]の違いを明らかに。
1844 関『男信質疑』。前年没した義門を追悼、『男信』への回答。
1860 白井寛陰『音韻仮名用例かなづかい』 [n][m][ng]の3種が明らかに。
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