2015-01-13

『ん ― 日本語最後の謎に挑む』 山口謠司 ★3

ん―日本語最後の謎に挑む (新潮新書)

感想


「ん」という文字が生まれ、広く使われるようになった経緯を紹介。
関連して空海がもたらした阿吽の思想、濁音を嫌う日本文化、研究者譚などが織り込まれる。
わかりやすく書いてあり、まったく素人の私でも親しみをもって読むことができた。

面白くなってきたのは7章からだが、「ん」ついて色んな方面から話題を提供する代わりに、その奥深さを伝えきるにはページが足りていないように思う。

特に「ん が意味する薄明の世界」は突然降ってわいたような印象。
はいでもいいえでもない曖昧さ、日本語の清濁を繋ぐ役割、と興味深い内容だけに、さらに踏み込んだものが読みたかった。

謎に挑むというよりは歴史概観と話題提供の趣が強い。



メモ


下記はたぶん誤植:
  • 『韻鏡』うは『切韻』をもとに作られた
  • 恵果が入定、う三月には


大まかな流れ

漢文
 ↓ 古事記 712 日本書紀 720
万葉仮名上代日本語上代特殊仮名遣
 ↓
ひらがなカタカナ 〜800
 ↓
訓読 9c


日本に伝わった読み方

南北朝時代、南の「呉音」(上海あたり)が日本へ
 ↓
隋、唐の共通語「漢音」の字書『切韻』が成立 600
 ↓
桓武天皇「漢音を使うように」 792
 ↓
宋代、増訂版の『広韻』が出る
 ↓
『韻鏡』が音を図表化する


撥音 [n, ng, m...]

中国(漢文)には「ン」の音がある。
古代日本に「ン」を表す文字はなく、イ、ニ、ム、レで代用していた。

このとき「ン」の代用として使われた言葉が、
そのまま読まれてしまい現在の読み方になっているものもある。
オモシロイ

神奈月 かんなづきなど、『古事記』『日本書紀』では「神 かみ」が「かん」に変化。
しかし「上」や「髪」は変化しない。
上代日本語の甲乙の音の違いが要因にある。


江戸時代の研究者(7章)

1715 新井白石『同文通考』著。60刊。
 「ン」の字は、梵字で撥音を表す「」からきているという説。

1777 礪波今道『喉音用字考』
 [n][m]の2つの撥音がある。

1787 論争。大和言葉に「ん」の音があったかどうか。
 あった : 上田秋成 『雨月物語』作者。礪波の説。
 なかった: 本居宣長 「純粋な50音しかない」

1800 宣長71歳、『地名字音転用例』

1808 東条義門『男信なましな初稿。35成立、42刊。

1834 関政方せきまさみち『傭字例』。『韻鏡』を使い[n][m]の違いを明らかに。

1844 関『男信質疑』。前年没した義門を追悼、『男信』への回答。

1860 白井寛陰『音韻仮名用例かなづかい』 [n][m][ng]の3種が明らかに。


0 件のコメント: