2014-01-28

『紙の民』 補足2

屋根



明日、きみの屋根を壊してみせる。



p140、土星
明日、きみの屋根を壊してみせる。
きみの台所の椅子はまだ頑丈なのに、僕の椅子のほうはおがくずの山になってしまった。スプーンが塵になってしまって、クローゼットのなかは土だらけ、着た服が糸になってしまうという思いを、きみにもしてほしい。きみのすべてが壊れて、ばらばらになること。きみが触れるものすべて。窓の下枠、きみのドアに続く階段、すべてが崩壊してしまうこと。そしてきみが彼に触れると、彼の骨は折れて、破片が脾臓に入って、肺にも入って、骨盤の骨もぽっきり折れて、漏れる血は錆びつく。彼が腐り、朽ち、消えていくこと。
 

今読むと、
「明日、きみの屋根を壊してみせる」っていう文章は、
この本の最後で土星の身に起きたこと(=彼自身が起こしたこと)なんだね。

それはどういうことかっていうと、
その後に書いてある通り、
「きみのすべてが壊れて、ばらばらになること」。

だとしたら、土星は最後に
「すべてが壊れて、ばらばらになってしまった」。

そういうことだよね。

でも、ページの外へ行こうとする父娘がいる。
彼らは、屋根の下から外へ出た。
崩壊した世界から外へ。


それを新しい出発だと、私は捉えたいなあ。

フェデリコ・デ・ラ・フェが土を掘り返し、
ふわふわにし、芝生を調整し、
彼女はおろか誰も…

「自分も」傷つかないようにした芝生を通って。


うむ…
このことを考えてると、また涙目になってるんだけどね。
なんで涙が出るんだ?


うーん…

たぶん、彼女を失ったっていうことの喪失感。
そしてそれを乗り越えるということ。
その純粋な気持ちに共感してるのかもしれないなあ…




土星とハンバート・ハンバート




「きみのすべてが、壊れてばらばらになること。」



このフレーズは快い。
ふとすると口ずさんで浸りそうになる。

私は上で引用した部分について、
「こういう気持ち悪さ、嫌いじゃない」と書いた。 >読書メモ

自分にこんなに辛い思いをさせる彼女にも、
同じ痛みを思い知らせてやりたい。

そういう気持ちは自分にもわかるからだ。
ただ、浸りすぎるのはよくない。
これじゃあまるでハンバート・ハンバートさんじゃないか。



ハンバート・ハンバートさんというのは、
『ロリータ』の主人公であり、
外国文学気持ち悪い男選手権
いまのところぶっちぎりで第1位の人物である。 >『ロリータ』感想

前にも書いたけど、
ロリコンだから気持ち悪いんじゃあないのだよ。

彼の場合、
「世間的に罪とされる幼女好きである罪悪感に苛まれる自分が好き」
って感じだからなあ。

土星はさ、ちょっとやけになる所があるとはいえ、
書いてることは自罰的なんだよね。

そこが大きく異なるよなあ。

ハンバートも悲しい男というのは、理解するけれど。


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