2013-05-14

『ドグラ・マグラ』 夢野久作 ★4

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

三大奇書を読んでみようシリーズその2。(その1:『虚無への供物』

あらすじ・感想

幻惑、幻惑。

読 み 終 わ っ た ー !
やっとのことで読み終わった。半年近くかかったなー。
「読むとキチガイになる」という噂が気になって、調子のいい時しか読まないようにしてたのと、
祭文のカタカナ文章や正木教授のもったいつけた話しぶりが読みづらいのとで、
なかなか前に進めなかった。

はー、疲れた!
しかしほんとに奇妙な話だったなあ。

はじまりはこうだ。

自分の名前も、過去もなにもわからない青年が鐘の音とともに独房で目を覚ます。
そこはどうやら精神病院で、青年の婚約者だと名乗る少女の逼迫した声が壁伝いに聞こえてくる。
一体自分はどういう人間で、なぜこんな所に入っているのだろう?


※以下ネタバレ注意











その謎を追っていこうとページをめくると、『ドグラ・マグラ』という原稿が作中に現れる。
そしてこの本の仕掛けについて、親切に教えてくれる。

奇妙キテレツな祭文、談話、論文、遺言書、事件記録、昔話などが挿入されて、
一体何が言いたいやらわけもわからぬまま読み進めるが、
青年の過去と関係しているらしい怪事件の真相、そして青年の正体を知る段になると、
その全てが本筋そのものになっている…らしい。

しかも、この作品の終わりに鳴る鐘の音は、最初のものと同一であり得るという。

私が半年かけてこつこつ読んできたこの本は、一瞬の出来事だったかもしれないのだ。
それならまだいいが、一瞬の出来事でさえもなかったかもしれない。
ただの妄想、夢。
そういう「惑わし」がたくさん詰まった作品である。


 ◆ ◆ ◆


怪事件の真相に至ってもそうだ。
「犯人は俺だよ…」と正木が自白するが、
これは「自分がやったから」ではなく「自分にしかできないから」らしい。

自分が犯人なら、やったことを淡々と語ればいいのだ。
だが彼はそうせずに、WとMの物語を聞かせて「黒幕は誰か?」の判断をこちらに委ねる。
どうもはっきりしない。
そうするうち、物語はWとMの非道な行いを紡ぎ出し、ついに青年は声を上げる。

だが待てよ、と。
色々と前もって準備ができる正木・若林の言葉や書類を、一体どれだけ信じられるのか。
もしかして全部よくできた嘘で、かつがれてるんじゃないか?
そうやって、青年が呉 一郎だと思い込ませるつもりじゃないのか。
こちとら、一郎がそこに見えるんだぞ?
それを、離魂病だのなんだのと。

だいたい学術のためとはいえ、
「子どもを孕ませてその子が将来狂人となり殺人を犯すよう準備を整える」
なんて、そこまでするか?

呆れた話だ、もしこれが本当なら。
学者先生たちまで巻物に取り憑かれてるじゃないか。
「もし本当なら」、ね。


 ◆ ◆ ◆


そう、「もし本当なら」。
ここにくるまで散々脳をかき回された分、こういう疑念がこびりついて離れない。
青年もこの「幻惑」を映すかのように「アッハッハッハ」と突然笑い出し、
「犯人なんていなかったんじゃないか、
偶然に起きたバラバラの出来事を無理やりつなげて、こんがらがってるだけじゃないのか」
と言い始める。

そんな疑念にひとまずの終止符を打つのが、巻物の最後の文字だ。
これで父親が誰か、黒幕が誰なのかが青年の頭にピン!ときて、ショックから彼は外に飛び出してしまう。
だがこんな時でも私の疑念は晴れない。
本当に見たのだろうか。
本当にそこに文字があったのか?


 ◆ ◆ ◆


外気に触れて戻ると、さっき見ていた資料にほこりがかぶるほど時間が経過。
そのほこりをかぶった資料の中に、さっきまで話をしていた正木が自殺したとの報。
解放場の流血沙汰の記事。

青年は思い出す。謎に対する答えを。

離魂病、夢遊状態、胎児の夢、被害者の最後の表情…。

ようやく探偵物語は終焉を迎え…

そして鐘が鳴り、私たちは夢から覚める/眠りに落ちる。
また最初に帰るのだ。

『胎児の夢』でこんなことが書かれていたのは、この時のためだろう:


一秒のうちに一億年が含まれていると同時に、宇宙の寿命の長さといえども一秒のうちに感ずる事が出来る訳である。

五十年や、百年の間の出来事を一瞬、一秒の間に描き出すのは何の造作もない事である。

盧生が夢の五十年。実は粟飯一炊の間……とあるのは事実、何の不思議もない事である。


さて、ここまで青年の身に起きた出来事は、現実に起きた事なのだろうか。

「正木との会話」が十月二十日の繰り返しだと考えたように、いつかの出来事を繰り返し夢に見ているのか。

それとも全て、夢の創作に過ぎないのか。
一秒にも満たない、刹那の夢の。

狐につままれたような気持ちで、今はいる。




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